左王テコナの受難
アイドルという世界はキラキラしていて眩しくて、それでいて残酷。
跡を絶たない脱退者に胸を痛める。辞めていってしまう子達はきっと楽しいより辛いが勝ってしまたんだろう。辛い世界に無理に残る事はないとは思うけれど、もっと彼女達と舞台に立っていたかったという気持ちが捨てきれない。それをつい言葉にして出してしまったことがある。
そのとき私にこう言った先輩がいた。「人気者でなんでもできるテコナになにがわかるの!?」と。あまりの剣幕に、私はつい「ごめんなさい」と謝ってしまって、それが気に入らなかったらしい先輩はより一層私に詰め寄る。
「テコナに勝てないからあの子達辞めていったんだよ?テコナと同じユニットにいたら目立てないから別のユニットに移籍したの。それなのによくそんなこと言えたね?」
そんなつもりじゃなかった。本当に心から同じスタービジューのメンバーとして一緒に活動していきたかっただけなのに――。私は涙を流しながらまた謝った。
「なに泣いてんの? 馬鹿みたい」
彼女はそれ以降なにも言わなかった。
先輩の言っていることはただの言いがかりにすぎないとわかっていながらも、私はメンバーのことを心配したりしてはいけないのかなと落ち込んだ。人気があるから、私が人気なせいで他のメンバーが傷つくから、だから加害者の私は辞めていく子達を心配してはいけないのかな。
今までメンバーのみんなとは仲良く出来ていたと思っていた。レッスンの合間に会話もするし、休日に一緒に遊びに行ったりもする。連絡をマメにとっている子だっている。けれどもしかしたらみんな本心では先輩と同じことを思っているのかもしれない。
「はぁー、疑心暗鬼にならないの。大丈夫、みんなそんなこと思ってない。大丈夫」
自分に言い聞かすように大丈夫、大丈夫と繰り返す。それしか出来なかった。
「なんで人気者になっちゃったんだろう。わかんない。もしも真ん中くらいの人気だったら、こうはならなかったのかな」
また涙が流れた。私は人気があるから他人を傷つける。本当にそうなのかな? 人気があればあるほど誰かを傷つけているなんてことがあるのかな?