元気は売り物

「あー」

 ロッテは重たげな声を上げ楽屋の机に突っ伏す。

「どーしたロッテ」

鵯巣ひよすぅ……」

 彼女は私の腰に纏わり付く。それを解いたりせず、ポンポンと一定のリズムで叩くと、ロッテはへにゃっと溶けた笑顔を浮かべた。

「いやーなんか改めて客席から自分の立ち位置を見て見るとホントに見えにくいところだなぁって思って、それでちょっと元気がなくなっちゃってた。――でも今鵯巣に抱きついたら気が軽くなった! ありがとね」

「そっか。お礼なんていいよ、こっちも代償もらってるし」

 ロッテは代償? と首を傾げる。

「そう、代償。ロッテに売った元気の代金だけどお金じゃないから代わりに代償って言ってる。私がロッテを元気にしたことで得た報酬みたいなもの」

「神山を元気にしたことで鵯巣はなにかを得たってこと?」

 私の話は難しかったみたいで、ロッテは首を傾げたポーズのまましばし固まる。

「私ね、元気って売り物だと思っているの。売ったら無くなるし、無くなったら在庫を補充しなきゃいけない。元気を買ったひとは元気になれるけれど売った人はなにか代償を得ないと自分の元気を消費しただけになってしまう。勿論他人に元気を売るという行為自体で自分の元気を得られる人だっているけれど、しかしみんながそうじゃない。でもアイドルはさ、元気を売れなきゃ失格じゃん? 私はずっとそう思ってる」

「そっか。そういう考え方もあるんだね。それで、結局鵯巣は私からどんな代償をもらったの?」

「ん? それはねー、神山ロッテの笑顔かな~って」



   ♪



  今日もアイドル鵯巣ヒヨリは元気を売る。

「みんな~今日も元気にひよっすー! スタビのオレンジ担当! 今日もたっくさんの元気を売ります! 鵯巣ヒヨリです! よろしくおねがいします~!」

 お決まりの挨拶で客席はオレンジ色の光がぽつりぽつりと灯る。よし。今日もいっぱい元気を売るぞ! アイドルとして、それが私に出来る精一杯だから。それが出来なきゃ私はアイドル鵯巣ヒヨリを名乗れないから。私が胸を張って、アイドルを名乗るために。



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