第7話
耐え忍ぶ休止期間が終わりを告げるときがやってきた。『Come alive again』が完成して二週間後のことだった。
「宝寿さん、随分落ち着いたようだけどなにかあった?」
久しぶりに会ったプロデューサーは気に掛かったというようにわたしの顔をのぞき込む。これまで電話で話したときは大抵取り乱した様子で早く休養を終えさせてくださいと言うばかりで到底落ち着いているとは言えない状態だったが、実際に会うわたしはそんなに落ち着いているように見えるのだろうか?
「なんというか、気持ちの整理がついたので……」
「そっか。よかったらどういうふうに整理をつけたのか聞かせてもらってもいいかな?」
はい、と返事をするとプロデューサーはわたしの隣に腰掛ける。
「ずっとプロデューサーに電話をかけて早く休養を終えさせてくれ~って暴れてたけど突然かけなくなったじゃないですか?」
「そうだね。パタリとこなくなって心配したというか、アイドル辞められちゃったりするかもなぁってマネージャーと話したりしたよ」
わたしは苦笑いを浮かべながら「急にかけなくなってすみません」と謝った。プロデューサーは「いいよいいよ」って気にするなと笑う。
「電話をかけなくなってから、毎日TAKARAちゃんのことを考えてました」
「へぇ、なんだか意外。てっきり宝寿さんはいつもTAKARAちゃんのことを考えていると思っていたから」
「たしかにTAKARAちゃんのことは常に考えているんですけど、でもちゃんと真正面から彼女のことを考えることってデビューしてから徐々に減っていたなって思ったんです」
過去を振り返って思い起こし、それを後悔するように俯いた。
「TAKARAちゃんの空想に浸ることが独りよがりなことは実はずっとずっとわかっていたんだと思います。でも見ない振りをしていました。その独りよがりが、とうとう大切な宝物であるTAKARAちゃんのことすら見えないくらい酷いものになってしまっていたんだと気がついたんです」
「……そうだね。TAKARAちゃんの想いを尊重しているように振る舞ってはいたけれど実際は宝寿さんの『TAKARAちゃんを人気者にしたい』という想いがなによりも先行していたと思うよ」
うん、と肯定を示すように俯いたまま小さく頷いた。
「それからTAKARAちゃんの幸せについて考えるようになりました。最初のころは考えても考えても全然答えがわからなくて、でもそれは仕方がないって、TAKARAちゃんは神様だから人間のわたしには理解できない幸せを抱いているって言い訳していました」
「でもそれは違ったんだね」
「はい。TAKARAちゃんの幸せはちゃんと歌詞になっていました。それは過去のわたしが空想の一環で〝TAKARAちゃんの幸せを定義した〟ってことです」
「なんだったのかな? その、TAKARAちゃんの幸せって」
わたしはその答えを発するために息を吸い込んだ。空気が入り込みひゅっと喉が鳴る。
「TAKARAちゃんの幸せは『名前を呼ばれること』と『みんなが幸せなこと』です」
わたしは泣いていた。
「……――わたしがずっと追い求めていた『信仰者を増やすこと』はTAKARAちゃんの幸せではなかった。TAKARAちゃんは、別に信じてもらえていなくても名前を呼んでくれたり、みんなが幸せならそれで良いって言う神様だった」
気がついたとき、自分がどうしようもなく情けなくなった。本当はきっとTAKARAちゃんの信仰者を増やしたかったとかじゃない、ただ自分の承認欲求を満たしたかっただけなんだと、自覚せざるを得なかった。
「信仰者を増やすだけの存在は辞めるんだね。じゃあ、今度はなんのためにアイドルやろうか?」
答えは決まっていた。
「わたしはこれから『TAKARAちゃんの名前を呼ぶひとを増やすため』そして『信仰者じゃないみんなも幸せにするため』に神様アイドルをやります……!」