第5話


 たくさん頑張ればTAKARAちゃんの信仰者は順調に頑張りに比例して増えた。多くの人がTAKARAちゃんの存在を信じ讃える世界を望んでいたわたしは悦に浸る。

 TAKARAちゃんの信仰者(ファンの総称である)は『ことぶき いし』のことを教祖という愛称で呼んだ。というのもわたしが『ことぶき いし』名義で受けた取材のある質問事項に「わたしはTAKARAちゃんをみなさんに伝える教祖みたいって言われたことがあります。自分でもなんとなく彼女専属のプロデューサーというより教祖の方が合っているなと思っています」と回答したことがきっかけだった。

「『神様』『教祖』『信仰者』――いよいよ宗教じみてきたな」

 総合プロデューサーが愚痴を吐くみたいに独り言を呟いた。そもそも面接の時にわたしのことを教祖みたいと言ったり、この構図を形成しやすい環境を作ったのは他ならぬこのひとなのだが、彼はなんとなく今の〝宗教じみた〟状況を嫌っているように思える。

「もう、なんでそんなに納得できないって顔をするんですか? TAKARAちゃんは怪しいセミナーを開いたりマルチ商法で危ないお金稼ぎをしているわけではないんですよ! この活動は人々の希望であり救いなのです!」

 どうしてわかってくれないのかな? TAKARAちゃんの姿を見ると救われるって言うひとだってたくさんいて、それをプロデューサーだって知っているはずなのに……。

「すまない。宝寿さんにはまだ難しいよね。これは俺の、長年にわたって築き上げられた勘によるものなんだ。だから伝わらなくても仕方がない。……――今は大丈夫だけど、きっと未来のどこかで修正の利かないくらいの大事が起こる……そんな気がしてしまうんだ。そうならないようにするのが総合プロデューサーの務めであることは理解している。こんな話して本当に――」

「も~! わかりましたよぉ! 大人がこどもにそんな姿を見せないでください! もっとこう、シャキッとしていてくださいよー! TAKARAちゃんのプロデューサーなら、ね?」

 今もずっとプロデューサーは青白い不安げな顔をしている。そんなに思い詰めなくたっていいのに。TAKARAちゃんならなんでも上手くやる。だって神様だもの。

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