夏休み6日目 麗璃視点

「麗璃さん、もし可能なら『分配』を使って僕に『干渉』を与えてください」

 生然は確固たる意思を持った眼差しで俺を見たあと深く頭を下げた。驚いた様子で「生然に?」と呟く俺に彼は続ける。

「僕も寿命をかけてイツカ――いいえ、【神様】に干渉します。だから力を分けてください」

「……言っておくが、半端なく疲れるぞ。それでもやるか?」

 考えることもせず、生然は「やります」と即答した。その眼は依然として強い願いを光らせている。

「……はは、そっか。うん。その真剣さは間違いなく本物なんだろう。お前の願いも足したら結構効果ある気がする」

「…………麗璃、それならボクにも『干渉』を分けてほしい。きみの負担を増やすことになってしまうけれど、どうしてもなにかせずにはいられないんだ。命をかけるほどの強い願いが【神様】に対抗する唯一の手段なのであれば、ボクだって――」

「慧念、一応言っておくが〝生然がやるから自分もやる〟とかならやめておけよ。それは願いや意思じゃなく場の空気に流されているだけだからな。その程度の心持ちのやつに俺も余計な寿命は使えない。――けれど、その力をどうしても手に入れたいのならとにかく願え。おまえの願いが本当に命をかけるレベルなのであれば、『干渉』はおのずと引き継がれる」

 慧念は納得していないようなどこか不満げにも見える複雑な表情で「わかった」と頷く。

「現在の状況をざっくり説明するが、麗瑠は今【神様】である世命イツカが作り上げたこの世とは乖(かい)離(り)された世界にいる。その世界を壊せば麗瑠は戻ってくるだろう。世命イツカは【儀式】で生まれた【神様】だ。別の世界を作り上げるほどの力を持っているとしても必ず【欠落】がある。そこをどうにか突ければ――」

「その隙を突くのに必要なのが『干渉』を使いながら願うことなんですね」

「ああ、生然にはきっともう『干渉』が与えられているはずだ。能力を使おうとかはわざわざ考えなくていい。とにかく〝麗瑠の姿を想像し〟〝麗瑠がこちらの世界に存在すること〟を強く強く、自分が死ぬくらい願ってくれ」

 試してみます、と生然は願い始めた。途端咳き込み身を丸める彼の背を慧念は慌ててさする。生然は苦痛が滲んだ顔のまま「これは、たしかに寿命が削れている感じがします……」と目をぎゅっと瞑り唇を噛んだ。

「これからより強力な『干渉』を使って世命イツカが作った世界とこの祠を繋げる」

 そう言って俺は蜘蛛の糸をたぐり寄せ紡ぐように慎重にこちらと向こうを結びつける。

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