QUESTION!早押しクイズVS瀬川

 イメージキャストに抜擢されてから一ヶ月も経っていないがCMの宣伝効果というものは計り知れないらしい。

 俺に舞い込んできたのはクイズ番組のゲスト枠。件の製菓会社がスポンサーを務めているらしく、一人だけなら宣伝枠として出場させてもらえることになったらしい。

 ゲストの話が飛んできたとき、すかさず「レイの方がいいのではないか?」という異議を唱えた。別にやりたくなかったわけではないが、レイならクイズ番組の出演経験もあってこなれているだろうと思っての発言だった。

 だがそれはダメなのだという。理由はわからないがレイにはこの仕事は差し向けたくないらしい。それならばと俺は了承を口に出した。

 ♪♪♪

 決してクイズ番組をなめていたわけではない。むしろ過剰なくらい構えて収録現場に訪れたくらいだ。

 このクイズ番組は早押しクイズを主に取り扱った番組で、1stステージ、2ndステージ、3rdステージと別の系統の問題を出題する傾向にある。そしてこの番組の醍醐味は最終戦。解答成績上位二名による一対一の早押し戦である。

 現在は2ndステージの半ばであるが、結果は現場の人間どころかまだ放送を見ていない視聴者でさえ予想が可能なのではないかと思えるほど彼―― 瀬川才智 せがわさいち ――の独壇場だった。

『2ndステージ第六問、日本で郵便制度が――』

 解答ボタンが押されるガチャンという音から間髪入れずにポンと回答権を獲得した際の効果音が響く。

「黒」

 設問が言い切られる前に回答したのはまたも瀬川才智であった。彼が問題文を読み切られる前に回答したのはこれが四連続目だった。

 四連続目と言えば六問中の先の二問は難問ゆえすぐには答えられなかったように聞こえるがそうではない。彼はあからさまに手を抜き、微笑を浮かべながら他の参加者がボタンを押すのをただ眺めていた。その姿からは本気を出せば全ての問題に対応出来るであろう余裕が滲んでいた。勿論カメラは驕りともとれるそれを捕らえたりはしなかったが。

「瀬川さん正解です。ちなみに問題文はなんだったと思いますか?」

「郵便制度がはじまった当初のポストの色についてかなと思いました」

「その通りです! 日本で郵便制度が開始された当時の郵便ポストの色は何色でしょうか? という問題でした」

 司会を務めるアナウンサーはこんなことは日常茶飯事だというように気にも留めず、次の問題を出すようスタッフに目で合図を出す。

 俺はまた肩の力を抜いて周りを眺める瀬川才智を見て、この番組はクイズ番組として面白いのか疑問に思い始めていた。

 はたして王者が加減をして白熱しているように見せているだけの番組を視聴者に提供することがこの業界の正解なのだろうか。俺にはそれを告発するような正義感はないし、問題を提訴したところで何かを変えられる力も無いから、ただこの新鮮な現場を心のどこかで傍観することしか出来ない。

 とはいえ俺も参加者の一人でありダリアプロダクションとLight Pillarを背負ってこの場に立っている。多少なりとも目立つことを意識しなければ。それにはきっと瀬川才智が手を抜いているときを狙ってどんどんポイントを稼ぐに限る。

 俺に答えられる問題などたかが知れている。学生時代はバイト第一で勉強は最低限といった程度だったし学力もほどほどだった。それに多様な雑学を有しているわけでもない。

 ただひとつだけ、誰にも負けたくない分野がある。

『2ndステージ第七問、音階を表すドレミの由来となっている――』  ガチャン、と勢いよくボタンが押される音が場内に鳴り響く。少し強く押しすぎた。手のひらがじんじんする。

 痛みを感じながらも俺は声を張り上げた。

「ヨハネ賛歌!」

 ピンポンピンポンと明るい音色と共に解答席のランプがチカチカと点滅する。

 音楽問題だけは、誰にも負けたくない。他の問題が取れなくてもこれだけは必ず死守してみせる。

「今回が初参加の佐倉ミチルくん、食らいつくように解答権を得ましたね」

 アナウンサーの言葉を聞いて、同じく司会を務めている大御所のお笑い芸人は俺に問いかける。

「この答えは前から知ってたの?」

「そうですね。なんでドレミっていうんだろうって気になって調べたことがあって」

「気になったら調べるんだねぇ、真面目な子だ。佐倉くんは音楽問題に強いのかな?」

「どのくらい詳しいかは自分では分からないんですけど、この分野で負けたくはないなと思っています」

 吃らずに答えられたことに心の中でガッツポーズを決めた。

 ふと辺りを見れば瀬川才智と目が合った。彼は慈愛を含んでいるような細めた眼差しで俺を見ていた。なぜそんな表情で見られているのか疑問に思い首を傾げると彼はより一層優しい顔で微笑んだ。

 ♪♪♪

 どうしてこんな状況になったんだろうな。

 収録も終盤。最終戦は先に十点先取した者が勝者となる早押し問題。

 残った一人のうちの片方は言うまでもなく瀬川才智であったが、もう片方を予想出来た者がいただろうか?

 瀬川才智の隣には俺がいる。俺が総合成績二位だったのだ。

 ただのクイズ番組だったらこうはならなかっただろうがこの番組には瀬川才智がいる。彼は〝音楽問題と俺が答えられるであろう問題を全てこちらに譲った〟のだ。

 どうしてそのような行動に出たかはさっぱり分からないが、そのお陰で俺は今この場に立ち、Light Pillarの佐倉ミチルとして目立つ機会を貰えている。

 瀬川才智は既に八点を獲得していた。答える様子は先程のように手を抜きつつといったように見えた。なぜなら彼は設問を全て聞いてからボタンを押す。早押しクイズなのに。そのくらいのハンデがなければ瀬川才智の圧勝になってしまうことは目に見えているが、それでも俺は手を抜かれていることに少々嫌気を感じていた。

『決勝戦第十問、若者言葉として普及した『やばい』という言葉。使われ始めたのは何時代?』

 ポンという効果音と共に瀬川才智の解答席のランプが点灯する。

「江戸時代」

 彼の前に置かれたランプがチカチカと点滅する。これで瀬川才智が九点……、対する俺は三点か。

 負けは確定したも同然だし、ここまで目立てたのならば十分な宣伝効果を期待できるくらいの活躍はできたであろう。でも、だからといって、諦めて二位に収まるのは性に合わないんだ。

『決勝戦第十一問、ポピュラー音楽でよく用いられるコード進行、パッヘルベルの――』

 コードでパッヘルベルと言えば――あれしかない。

 すかさず前屈みになって解答ボタンに手を伸ばす。俺の指先がボタンに触れたとき、目の端に見えた瀬川の手は解答席の下で小さくガッツポーズを構えていた。

「カノンコード!」

「正解です! ポピュラー音楽でよく用いられるコード進行、パッヘルベルの楽曲が由来の名前なんという? という問題でした」

 ふぅと息を吐いて姿勢を正す。よかった、これは流石に取りたかった。

 回答席のモニターにしっかり一点加算されたのを確認して胸を撫で下ろした。その様子を眺める瀬川才智は爽やかな笑みを浮かべながら俺に向けて拍手を送ってくる。

「佐倉ミチルくん、初参加ですがあの瀬川才智に食らいついて離れませんね! 音楽問題はやはり自信ありましたか?」

「はい。多分今日の収録の中で一番逃したくない問題だったと思います」

「音楽が本当に好きなんですね! それでは次の問題をどうぞ!」

『決勝戦第十二問、車のナンバープレートに使われないひらがなは四つ存在します。その文字とはなんでしょう』

 わからねぇと首を捻ると瀬川才智の顔が見えた。一瞬目が合って、それからほどなくして彼は解答ボタンを押した。

「お、し、へ、ん」

 正解を示す効果音と、彼が十点獲得し終えたことを知らせるファンファーレが鳴り響く。あぁ、やっぱり負けたか。

「瀬川才智またもトップを死守しました。いかがでしたか、今回の収録は」

「佐倉くんが初参加で最終戦まで来るのがすごいなと、これからもっとこの番組に出てもらいたいですね」

 良く言うよ、調節してたくせに。

「瀬川さん相手にかなり善戦していましたね! 佐倉くんはどうでしたか」

「知識力のなさを痛感しましたね。早押しクイズで早押し出来たのがドレミとカノンコードだけですから……」

「得意分野があることはいいことだよ。現に佐倉くんは音楽問題全部取れてるからね」

 瀬川才智はどこか誇らしげに俺を褒める。流石にちょっと照れてしまう。

 恥ずかしくて照れ笑いを浮かべて黙ってしまった俺にすかさずフォローを入れたのも瀬川才智であった。

「佐倉くんは今チョコのCMに出てるんだよね?」

 ハッとした。そのためにここに来たんだった。

「あ、はい! ツバイ製菓さんから発売された新作チョコレート三種類のイメージキャストを担当させて頂いています!」

「楽屋にも置いてあって、俺も食べましたよ。佐倉くんはモカのイメージキャストなんだよね?」

「はい、俺はビターモカのキャストを担当させて頂いています。ビターと聞くと苦いのかなって嫌煙してしまうかもしれないんですが、癖になる味で美味しいので、ぜひみなさんも食べてみて下さい。勿論他の味も」

 いっぱいっぱいになりながらの宣伝は出演者一同の子を見守るような視線のなか無事に終えることができた。

 ♪♪♪

「収録おつかれさま、佐倉くん」

 収録後、スタジオの廊下で声を掛けてきたのは瀬川才智だった。

「……! 瀬川さんおつかれさまです。さっきは宣伝のアシストありがとうございました。おかげでそれなりの宣伝ができたように思えます」

「最初は緊張するよね。満足いくようにできたのなら何よりだ」

 αindiの人間に対してレイが身構える様子から嫌な人である可能性も考慮していたがそんなものは杞憂であったらしい。普通に良い人っぽく思える。

「初参加で最終戦まで残ったのは多分佐倉くんが初めてだよ。すごいことだ。きっとこの番組の出演依頼がまたくるよ」

「いや、瀬川さんの方がすごいですよ」

 謙遜ではなかった。本当に、手加減されなければ手も足もでなかったであろうことくらい分かっている。司会には善戦していたと言われたがそれもやはり彼がなにか思惑をもって点数を操作していたからにすぎない。実質惨敗したようなものだ。

「瀬川さんの知識量には敵いませんよ。それに早押しクイズなのに問題を全文言われる前に答えられたのは二つだけだったし。瞬発力もあってなんでも知ってる瀬川さんの方がやっぱりすごいと思います」

「ははは。よく何でも知っているって言われるけど本当になんでも知っているわけじゃないんだ。結構ムラがあるし。俺の人生にあまり関係ないことの方が覚えられるけど」

 関係無いこと? と問えば彼は微笑んだ。

「とっくに死んでいる遠い誰かが何をしたとか、何を言ったとか。俺には関係無いのに覚えてしまうんだ。そのくせ気の利いた一言とかは覚えられない」

 脳の無駄遣いだと彼は自虐めいた表情で小さく笑った。

 瀬川才智はその笑みのまま「でも本当に、諦めずにあんな善戦出来たのはすごいよ。優勝したかったんだね」とまるで子供を相手するように優しく言った。

「なんというか、優勝したかったというよりも瀬川さんに凄く勝ちたかったです。だから勝つつもりで挑みましたけど、結果はやっぱり惨敗でした。次、また出演の機会があったら今日以上に全力で頑張ります。その時は譲られなくても自力で答えます」

「そうか……。君は真面目で好感が持てるからきっと業界でも可愛がられるよ」

 自分が可愛がられる様子がイマイチ想像できなかったが、うぬぼれでなければ現に今可愛がられているのだろうし、きっとこの人が言っていることはあながち間違いではないのだろう。

「そうだ、連絡先を聞きたくて引き留めたんだった」

「え、ああ、連絡先……、わかりました」

 この人は俺と違って交流に積極的なのかもしれないと思いながら、楽屋に去って行く彼の後ろ姿と連絡先に増えた瀬川才智の文字を見つめた。

 ♪♪♪

 自分の仕事に一区切り付けて瀬川でも冷やかしに行こうと楽屋を目指す。そんな折、スタジオの廊下で見覚えがあるような無いような、そんな後ろ姿を見た。彼が振り返ったことによりその曖昧な認識は当然の結果だったことが証明される。

 彼は確か佐倉ミチルといってレイの新しいグループのメンバーだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの無力な可愛がられるべき者。

「ねぇ君、Light Pillarの佐倉ミチルくんでしょ?」

 振り向きざま急に声を掛けられて彼はとても驚いていた。というか、声を掛けてきた相手に驚いたのかもしれない。

 この僕。新堂サラに。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です。瀬川と収録だったんでしょ?」

「はい」

「どうだった?」

「当然の如く惨敗しました」

「あはは~だよねぇ。でもスタッフが君のことを褒めていたから、きっと君もかなり健闘したんだろう。オンエアが楽しみだ」

 僕の言葉なんてお構いなしに凄く悔しそうな顔をしている。クールな見た目をしていてもこの子は案外負けず嫌いで熱い子なのかも。

「あ、そうだ。αindi好き?」

「え、あ、好きです。最近よく聴くようになりました」

 突然の問いかけに肩を強張らせながらも好意的な返答。てっきり苦い顔でもしてはぐらかされると思ったけど、もしかしてレイはうちの悪評を流したりはしてないのか? しかも最近聴き始めたって、レイは今もせっせと布教活動でもしてるってこと?

「へー! 推しは?」

 彼は言い淀んだ末に口を開いた。

「アイドルに詳しくなくて、推し……というものはまだ決まっていないんです。まだ楽曲を楽しむ程度で。すみません」

 僕は思わずニコニコしてしまった。なんて素直な子なんだろう。なんて初期の瀬川に似ているんだろう。

「佐倉ミチルくん、君は正直者だ。僕は好きだよ、そういう良い子ちゃん。誰かさんと違って」

 僕は彼の脇を通り過ぎる間際振り返って手を振った。

「またいつの日か会おう! 次会った時は新堂サラ推しだって言ってね~!」

 ♪♪♪

「廊下で話していたね、えっと佐倉――、……佐倉くんと」

「名前思い出せてないじゃん。佐倉ミチルくんだよ」

「そう、佐倉ミチルくん。彼は俺に勝ちたかったんだって。それで頑張って、点差が開いても勝負を投げ出さなかったんだ。すごいよね」

 感心を口に出しながら、「なんだか彼は好意的に見れる」と笑っている。

 お前がそんなに喜んでいる理由を僕は分かっていると伝えたら、こいつはどんな顔をするんだろうか。

 お前は佐倉ミチルの口から「勝ちたかった」って台詞を聞けた事が嬉しいんだ。己の価値を肯定されて気持ちよくなっているんだよ。お前はお前に勝つつもりで挑んできた奴に敗北宣言させたことに満足している。そう言えば傷つくだろうか。

 こうやって僕に話す辺り、その見下しやマウントを取っているとも取れる感情は全く無自覚の産物なのだろう。その辺も僕は分かっている。だって今のお前はそういう奴だ。

「でもちょっと余計なことをしすぎちゃったみたいだ」

「そう。珍しいね、なんかやったの?」

「レイが気に入っているみたいだからさ、良い子なんだとは知っていたんだ。それに商品宣伝もあるから目立たせてあげないとって。だから最終戦まで残らせてあげたんだ」

 それに気付いてないと思ったんだけどバッチリバレてたみたい、と眉を垂れさせた。

「ミチルくんって負けず嫌いっぽいから瀬川は嫌われたかもね」

 そう言えば彼はあからさまに動揺した様子で口に手を当てた。

「どうしよう……謝った方がいいかな? 連絡先は知っているんだけど……」

「いや、いきなり大先輩から謝罪がきたら新人はビビるでしょ、馬鹿じゃん?」

「じゃあどうすれば」

「放っておけよ。彼が今回の番組で成果を出せているのならば自ずと僕達と共演する機会も増えるだろう。そこで挽回しなよ」

「次の共演まで待てって?」

「そーいうこと」

 瀬川は残念そうに肩をすくめた。そんなに佐倉ミチルにご執心か。

「そんなに気になる? ミチルくんのこと」

「そうだね。だってレイと仲が良いみたいだから、レイと仲良くなれるならきっと俺とも仲良くしてくれる」

「仲良くしてくれるだろうから仲良くしたいの?」

「うーん、なんというか。レイより彼と仲良くなりたい」

 あはは、流石にこの略奪みたいなものの真意はわかんないや! 僕は匙を投げた。

「まぁなに? 仲良くなりたいなら飲みに誘ったりしてみれば? いや、確か彼は未成年だったね。それならお互いオフの日にご飯でも行ってきたらいいじゃん、どう?」

 彼は数秒悩んでからこう言った。

「うん、そうしよう。一緒に食事に行こうって誘ってみるよ。そこで仲良くなって友達になるんだ」

 別に、こいつは友達に餓えているわけじゃないんだけどねぇ。どうしてそうも佐倉ミチルと仲良くなりたいんだか。さっき言っていた『レイより仲良くなりたい』が真意であるのならば、コイツは相当歪んでいるな。――まぁ面白そうだから本人にそれを伝えたりだなんて野暮なことはしないけどね!

 ♪♪♪

 実際にオンエアされた映像は好評で、『初参加で瀬川才智に食らいついていると』佐倉ミチルくんはちょっとネット上を盛り上げた。勿論やらせだという指摘が一切無かったわけでは無いが、彼があの結果をなせたのは間違いなく実力だと僕は思っている。

「ねぇ新堂」

「なに?」

「ミチルくんと食事する手筈を整えたかったんだけど、WdFも近いからと断られてしまった」

「あーもうそろそろそんな時期だもんね。本腰入れないといけないのは確かだ。だって僕達が手にする結果は優勝のみなんだから」

 僕の言葉なんか聞きやしないで「はぁーぁ」というデカい溜め息を吐いている瀬川を放ってスケジュール帳を開く。

「レッスン足すか」

「今のままでよくない?」

 ギロリと睨みを利かすと瀬川は口を噤んだ。

「僕がいつも言ってるやつ、言ってみろ」

「……一秒でも一瞬でも多くステージに立っていてほしいと観客に思わせたアイドルが最後まで生き残る」

「そう思ってもらうにはまずステージに立たなければいけない。そこではじめて観客の目に触れて、やっと「もっと長く輝いていてほしい」と感じてもらうところに繫がるんだ。一定の人気が確保されているからってあぐらをかいていたらステージに上がる権利すら得られなくなる。そうならないために僕達は練習に励むんだろう」

 瀬川は渋々といった様子で了承を口に出したが、付け加えるように「柊が新堂の納得する返答をするとは思えないけどね」と吐き捨てた。

 どうしてみんな僕の考えを分かろうとしないんだ。僕は誰よりも確かなことを言っているのに、それなのに皆僕を白い目で見る。

 僕が正しいことを証明するためにも僕だけはなんとしてもαindiのためになる行動を取る。それが誰かを潰す結果になってでも。

「忘れるなよ瀬川。僕等が背負い名乗っている星の名を。〝個々の輝きの弱い〟あの星の名を。僕達が他のアイドル 達に埋もれていた時期を」

「……忘れたりしないよ。俺達が一等星になれないことも、三等星でも王者であり続けるための術も」

「ほら、じゃあレッスンの日程を決めよう。勿論柊にだって文句は言わせない、というかあいつは意外にこの手の話は通じやすいんだ。一回干されているからね。五十嵐だって文句は言わないだろう。……それじゃ次のレッスンの日程だけど――」

 αindiは王者でなくてはいけない。だってそうだろう? そうじゃなきゃ、僕が間違っていたってことになってしまう。三番目の輝きではその程度だということになっていしまう。

 そんなことはあってはならないんだよ、このアイドル業界 世界 では。

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