旬
もっと私を見つめてほしい。アイドルとしての私の旬はそろそろ終わるから、だから残り少ないその瞬間達を逃すことなく目に焼き付けてほしい。そう願ってしまうのは、私のわがままなの?
スポットライトの当たらないライブ。列が出来ない握手会。出演全カットされたネット配信番組。頑張って喋っても二言程度しかインタビューの掲載されない雑誌取材。仕事はあっても出番がない。
人気があれば違かったのかななんて思う瞬間も今じゃなくなって、むしろ前向きに、人気ないなりに頑張ろうみたいな、やる気と言うよりも一種の自棄みたいな心境になってくる。
どうなれば私の理想通りなのか最近徐々にわからなくなってきていて、人気者になれたらそれは嬉しけれど、それで満足かって言われるとそうではなくて、進むべき道とか志すべき未来とかそういうものが不明瞭なまま今日も私は〝アイドル神山ロッテ〟としてお仕事に携わる。
私も馬鹿ではないから、自分の旬というものにもう気がついていて、その旬に添った人生設計をすればアイドル神山ロッテの旬も見えてくる。
本心をいうとアイドル業界に未練はある。結局私は何もアイドルでいたという痕跡を残せていないの。この業界に爪痕を残したい。アイドル活動をしてきたなかで私が満足できる結果を残したい。その瞬間に出会ったとき私は引退を視野にいれるのだろうな。それに出会えなくともタイムアップでこの場を去るバッドエンドがあるだけなのだが。
女性アイドルの寿命は三十歳が限界。場合によっては二十五歳で定年だってこともある。そして大体の子は二十三歳で引退を視野に入れ始める。男性アイドルよりずっとずっと短い期間でしか私達女性アイドルは生きられない。女性アイドルは女性アイドルなりの悩みを持っているのだ。
もしも私に賞味期限がなかったなら、そうだったらどんなに幸せだったでしょう。ずっとずっと美味しい時期を続けられたのならば、そしたらいつか私にスポットライトが当たる瞬間だって訪れるのかも。
スタビのトップ――テコナさんには敵わないけれど、私はテコナさんになりたいわけではない。テコナさんのいるところに辿りつきたいわけでもない。
ただ神山ロッテというアイドルを誰かに、見つけてもらいたいだけなの。
だから早く見つけてね。私の旬が終わる前に。