WdF予選説明会(2年目)

 80人あまりが入室してもまだ余裕がある広大な会議室で、俺達LightPillarは他の参加者達と共にWdF予選の概要や進行の説明を受けている。俺達は配布された冊子を見下ろしながら運営スタッフの声に耳を傾ける。

 この場にいる20組のグループを5組ずつ4ブロックに分けブロックごとにパフォーマンスを審査し、4ブロックそれぞれの得点数1位が本戦内定。残った16組を半分の8組ずつにわけ、再度審査し上位2組が本戦参加権を得る。内定グループは点数の高い順に6位まで割り振られる。パフォーマンスや審査員のコメントなど審査の様子以外に事前に撮影し編集した各グループの練習風景などを含む短いドキュメンタリー風紹介映像も番組内で使用されるらしい。3時間の尺の中で20組の参加者の紹介とパフォーマンスと審査を詰める前提なので視聴者をダレさせないためにカットも多く挟むという旨の説明があった。

 一通りの説明を終えたあとはブロック分けについての話をされた。説明会時にくじ引きでブロック分けしていた例年とは違い今年は会議時間短縮のため運営側が事前にブロック分けをしたとのことだった。

 新たに配布された用紙に各ブロックのグループが記されている。俺達LightPillarは『Bブロック-③』と割り振られていた。③とはそのブロックで3番目にパフォーマンスを披露し審査されるという意味らしい。

 同じブロックの⑤にはKeepOUTの名前があった。目だけで会場内を見回しその姿を探すとすこし離れたあたりにおそらく上岡さんだろう赤い三つ編みを垂らした背が見えた。



 ♪♪♪

「わぁ……疲れた……」  詩子がぐぐっと伸びをする。その様子を見てレイは「ずっと椅子にかけたままだったから体も凝っちゃうよね」と優しく声をかけている。

 俺は会議室内のKeepOUTの姿を探す。先程上岡さんがいたあたりに顔を向けると上岡さんの隣にいる市先さんとバチッと目が合った。詩子とレイも俺の視線の先を追うようにあちらを見る。

「あ……KeepOUTさん……」

 詩子が小さく呟く。その眼差しを見るにKeepOUTへの苦手意識はまだすこし残っているようだ。

「彼らとは同じBブロックだからツバイのCMオーディションのとき同様また競うことになるね」

 レイの発言に「そうだな」と返す。遅かれ早かれ対戦する機会はあっただろうが予選で早くもぶつかることになるとはな。

 そんなことを話しながらKeepOUT一同を眺めていると彼らは席を立ちこちらに歩み寄ってくる。三人揃って俺達の前にくると市先さんが口を開いた。

「αIndiに勝つためにまずはお前達に勝つ。全力でこい。こちらも全力でいく」

 レイを睨みながら宣戦布告とも取れる一言を置いて彼は出口へ去っていく。その背を上岡さんと色水さんはのんびり追う。

「彼らは手を抜かず、しっかり真正面から俺達と戦ってくれるだろう。なら俺達にできることも同じだ」

「うん! LightPillarも真っ正面から戦ってKeepOUTさんにも他のアイドルさんにも絶対勝とう! 予選で結果も出せずに終わりなんてすごく悔しいし……!」

「そうだね。LightPillarにも他のアイドルに劣らない輝きがあるって証明してみせよう」

 詩子とレイが話しているのを聞きながらもその会話にはまざらず俺はただ配布されたブロック表を眺めていた。

 

 ♪♪♪

「それにしてもWdFって女性アイドルユニットは参加できないのか?」

 帰りの車内で俺は詩子とレイに軽く質問を投げていた。

「ううん、一応前に女性アイドルユニットが参加したことはあるよ!」

「そうなのか」

「今の女性アイドルは人数が多いことがほとんどでWdF予選に応募できそうな人気があっても人数制限に引っ掛かって出られないっていうのが多いの」

「それに女性アイドルしか参加できない大会もあるから元から男性アイドル多めでアウェーになりがちなWdFに出るより客層がマッチした女性限定出場のそっちに出た方が人気も出やすいっていう部分もあるね」

 ふたりの説明に「なるほど」と納得を口に出す。

「ミチルがそう思ったのは今回のWdF予選説明会に参加していた女子が詩子だけだったからかな?」

「ああ」

「さっきの説明の通り女性アイドルがWdFに出ることは珍しいし、男女混合ユニットがWdFに出るのは今回が初めてだから、やっぱり参加者は男だけってことが多いね」

「もしかして俺が思っているよりも男女混合ユニットって珍しいのか?」

「うん! 結構珍しいと思う! でもたまにいるから現アイドル界でLightPillarだけが男女混合ってわけじゃないよ!」

「そうなんだな」

 ふたりから業界のことを教えてもらうたびにいろいろあるもんだなと思う。

「ひとまず予選で披露する楽曲選びとトークの内容を考えないとだ。あと3週間ほどの期限のなかで予選を突破できるプログラムを組まないと。それも1つではなく、最高の出来のものを2つ用意しないといけない」

「1位通過出来なかったときはもう一回審査があるから2つ必要なんだね」

「うん。初回の審査で1位を取れるに越したことはないけれど同じブロックに前回準優勝のKeepOUTがいるのを考えるとやっぱり1位通過は容易ではないからね」

「う~ん、とにかく『良いパフォーマンスだ』って審査員さんたちに思ってもらわないとだから、LightPillarの中でも人気の曲を選んでMCトークでは楽曲の制作秘話とか話してみる……とか?」

「いや、楽曲自体の制作秘話はLightPillarを初めて見るひとには刺さらないかもな……。もっと俺たち自身のことが伝わるテーマがいいかもしれないね」

「そっか……! LightPillarのライブと違って詩子たちのことを初めて見るひとの方がずっと多いよね……!?」

「うん。予選は本戦と違って特別審査員票はないから音楽プロデューサーや振付師などの業界関係者や今年人気だった俳優やお笑い芸人など比較的こちら側のひとしか点数をつけないけれど、多分その誰もがLightPillarのことを『元αIndiがいる男女混合ユニット』くらいしか認識してないだろう」

「まあ、そのあたりも含めて後日作戦会議だな。社長やマネージャーだけじゃなくて中原先生や上條先生にも相談して既存のファンも初見のひとも惹きつけるパフォーマンスを作るしかない」

「ミチルの言う通り。いろんなひとの意見を聞いて、でも自分たちのやりたいこともブレさせないで、観客を最高に楽しませるパフォーマンスができれば点数に反映される、それはたしかだから、全力で挑んでみんなで予選通過を掴み取ろう!」

 

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