三人の日々
「うーん……」
真希奈と二人揃ってデパートのチラシの前で腕組みをして首を傾げる。
九月七日まで一週間を切った今日、もう早急にそれを用意しなければいけなかった。だが――
「このおもちゃなんてどうでしょうか?」
「三歳児ってこれで遊べるのかな? 難しくない?」
「だからと言っておままごとセットや積み木はもう家にありますしねぇ」
「やっぱりサプライズはまた今度にして本人に選ばせるべきじゃないかな」
来たる息子の誕生日に向けてプレゼントを探しているわけだがピンと来るものが一向に見当たらない。大の大人が二人揃って三歳を迎える息子のプレゼントに頭を捻らす事態にかれこれ小一時間も要していた。
「そうですね、ちょっと本人を連れてきます。そろそろお昼寝から起こさないといけませんし」
そう言って真希奈は席を立つ。十分ほどして眠いとぐずる能代を抱いて戻ってくるとチラシを見せて優しく話しかける。
「能代さん起きて、おもちゃだよ」
能代は下唇を噛みながら彼女の胸に顔を押しつけ駄々を捏ねる。真希奈はめげずにおもちゃだよと話しかけるが彼は頑なにイヤと抗議の意を示す。
「能代~?」
「イヤ!」
俺の間の抜けた声により一層強い反発をすると彼は鼻を啜る音を立てながらうぅと小さく唸った。俺は胸が苦しくなるのを抑えながら真希奈に向き直る。
「参ったな……交渉の余地はないのか……」
「充分寝たはずなので興味さえ引ければなんとかなりそうですがね……――あぁ、そうだ」
閃いたという顔で彼女は不要なチラシを一枚掴むとそれをくしゃくしゃに丸めてボールを作って、そして俺に向けて投げた。
「はい、能代さんパス」
「え? あぁはい」
三回ほどキャッチボールをすると、飛び交うボールに気を引かれた能代はいつの間にか真希奈の胸から顔を上げて宙を跳ねるチラシの塊を目で追っていた。
「あ、気を引けましたね。今のうちです」
真希奈はすかさずおもちゃのチラシを手に取ると能代の前に広げて見せた。俺の位置からではよく見ることが出来なかったから、俺は正座のまま脚を擦るようにして二人の隣へ移動した。
能代はきらきらした目でカラー印刷のチラシを真希奈の手から受け取ると口をU字型に曲げて俺達を見上げた。
「どれがほしい?」
そう聞けば彼はにこにこしながら首を右へ左へ傾け、指を悩ましげに動かしたあとひとつの商品へ止めた。そのおもちゃは真希奈にはかなり意外だったみたいで「それですか?」と能代を覗きこんでいたが、俺にはそれを選んだ理由がよく理解出来た。
「わかる。アームとかロマンの塊だよね、油圧ショベル!」
能代が選んだおもちゃは幼児が搭乗できる小さなショベルカーで、本格的な作りになっておりレバーを引けばアーム部分が稼働する仕組みになっている凝った代物だった。
「能代が言うんだからさ、もうこれしかないよね! 油圧ショベル!」
「うん、じゃあこれにしましょうか。一応言っておきますけど、大きな能代さんが乗ったら壊れますからね」
「いや流石に乗らないよ……ちょっと乗りたいけど……」
― * ―
九月七日のお昼。宅配便で頼んでいた例の物が玄関先に降り立つ。こっそりとそれを開封し玄関先に設置して、事前に(俺がわがままを言って)用意した子供サイズの現場職員っぽいベストや黄色いヘルメットなど万全の準備を整えて今日の主役を招いた。
「じゃーん! 能代、これなぁんだ?」
「…… !! ゆあつしょべる!」
真希奈は呆れている。プレゼントを渡すまでの期間、乗り物図鑑を見せながら「これは油圧ショベルだよ」と教えていた様子を彼女はしっかりと見ていたらしい。
「ちょっと今からコスプレさせて庭で油圧ショベルに乗せてくるね! 工事現場ごっこだ! レッツゴー!」
能代を座席に乗せて後部に着いている取っ手を押しながら小さな油圧ショベルを玄関から庭へ出す。
「あぁ! 待って下さい私も行きます!」
それを見て慌てて真希奈も靴を履く。
こんな昼下がりはとても楽しい。どたばたしているけれど、こんな幸せな生活がいつまでもずっと続くといい。