九院××の独白

彼女は俺を幸せにするためにこの世を離れた。彼女自身それがどういうことであるかはよく理解していたはずだ。輪廻転生はない。天国も地獄もない。死とは無であり永遠であると彼女は常に言っていた。それでも彼女は永遠と無と引き換えに俺を幸せにしようとした。

 俺は彼女の死が幸せに繋がるだなんて一度たりとも考えたことはないし、嘘でもそれを口にしたことはない。俺は彼女に生きていてほしかった。彼女が生きている未来を生きたかった。けれどその想い以上に彼女の意思は頑なだった。

 彼女は常に言っていた「十四歳のあなたを救うのは私じゃない、あなた自身が救うしかないのよ。そうじゃないと意味がないの。私はその材料であり基盤でしかない」と。あくまで能代を救うのは俺であると。

 彼女は最初からこうなることを目指していた。酷く無責任だと思う。まるで俺の母親のような浅はかでおぞましい彼女を俺はちゃんと愛せているのだろうかと疑問に思うことも多かった。

 けれどそれでも俺は結木真希奈が好きだった。

 いくら俺の母親みたいでも、いくら能代に酷いことを課していていも、それでも彼女は俺にとってただ一人の結木真希奈だった。今もそうだ。彼女の最後の手記には忘れてもいいだなんて書いてあったけれど俺は絶対に真希奈を忘れたりしない。俺の存在を以てして永遠を持続させる。それが彼女の幸福であり、彼女の幸福こそが俺の幸せだから。

 だってそうだろう? 俺を幸せにするために死んだ彼女を俺が幸せにしなくてどうする。

 詰まるところ、俺達の幸福は互いに依存しているんだ。お互いがお互いの幸せを見出した存在なのだから当たり前と言えばそうなのかもしれない。

 少し前まではもう一度会いたいだなんて考えを捨て切れていなかったけれど最近はそうでもないんだ。いつか君が日記に書いた永遠について、なんとなく理解出来てきたのかもしれない。

 輪廻転生なんてなくていい。廻り会いもなくていい。ただ君がいたという事実と君が遺したものが確かに存在すれば、君の幸福と永遠は終わらない。君が生涯を掛けて愛した俺が言うんだ、間違いない、保証する。

 能代と再会して、あの日記を読んで、やっと受け入れられたよ。君の死を。君の永遠を。君の幸福を。

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